メンタルヘルス

思い込みも変わる!認知行動療法の「スキーマ修正」で心を楽にする方法

1. 認知行動療法(CBT)の誕生:2人の巨匠とルーツ

認知行動療法(CBT: Cognitive Behavioral Therapy)は、もともと複数の異なる技法が組み合わさって発展してきました。
その中心的なルーツを担うのは、以下の2人の専門家です。

💡 アーロン・ベックの「認知療法」

精神科医のアーロン・ベックは、うつ病患者さんを診る中で、彼らに共通する認知の歪みネガティブな自動思考のパターンを発見しました。

ベックが開発した認知療法は、うつ病を短期で治し、再発を防ぐ効果的な治療法として世界中に広まりました。
日本でも、精神科で受ける際には保険適用が認められています。

💡 アルバート・エリスの「論理情動行動療法(REBT)」

心理臨床家のアルバート・エリスは、クライアントの強固な不合理な信念を変えることで、カウンセリングの効果が劇的に高まることに気づきました。

エリス自身、かつてはひどい人見知りでしたが、「人に拒否されたら終わりだ」という信念を、行動療法を応用して100人以上の女性に声をかける(ナンパ)ことで自ら打ち破ったというエピソードがあります。

行動療法との統合

これら「認知(考え方)」に焦点を当てる療法に、「行動(行動様式)」に焦点を当てる行動療法が組み合わさることで、心と行動の両方を変える認知行動療法が誕生しました。
CBTは、これら様々な技法の総称と言えます。


2. 認知行動療法の核心:ABCモデルと自動思考

CBTの基本的な考え方を理解するために、エリス博士が考案したABCモデルと、ベックが提唱した自動思考について見ていきましょう。

エリスのABCモデル(REBT)

ABCモデルは、出来事感情の間に、私たちの「信念」が介在していることを示します。

要素意味例(友人との待ち合わせで30分待たされた場合)
A (Activating Event)嫌な出来事友人との待ち合わせで30分待たされた。
B (Belief)不合理な信念「時間を守るのは人として当然だ」「相手は私のことを軽視しているに違いない」
C (Consequence)過剰な感情失望、強い怒り、イライラ

このモデルでは、B(不合理な信念)に反論する(D:Dispute)ことで、C(過剰な感情)を適切な感情に変えていくことを目指します。

反論(D)の例結果としての感情(E:Effect)
反論: 「人として当然」という根拠はない。相手には相手の考えや都合がある。適切な感情: 「遅れることもあるよね。少し心配だけど待っていよう」

ベックの「自動思考」

ベックの認知療法では、頭にパッと浮かぶ思考自動思考と言います。
「いつも失敗ばかりだ」「つまらない人だと思われているに違いない」といった、出来事に対する評価結果についての認知です。

この自動思考を修正することもCBTの重要なステップです。


3. 心の奥底に潜む「スキーマ」を修正する

自動思考のさらに奥に隠されているのが、今回のテーマである「スキーマ(Schema)」です。

スキーマとは?

スキーマとは、あなたの人生観価値観、そして物事を解釈するためのより頑なな信念評価基準の認知です。
ベックの認知療法では、これが抑うつ症状の根本にあると考えられています。

【スキーマの例】

  • 「常に完璧でなくてはならない」
  • 「すべての人に好かれ、嫌われてはいけない」
  • 「自分には愛される価値がない
  • 「自分は一生孤独だ」

スキーマと自動思考の関係

スキーマは、出来事を解釈するフィルターのようなものです。
このフィルターを通すと、特定の出来事をきっかけに、自分を辛くする自動思考が浮かびやすくなります。

心の奥にあるスキーマ自動思考(例)結果としての抑うつ症状(例)
「自分には愛される価値がない」「私と会うのは相手にとってどうせどうでもいいことなんだ」落ち込み、自己嫌悪、不安、わけもなく悲しい

スキーマ修正への挑戦

CBTでは、まず自動思考の修正に取り組み、適応的な思考パターンが身に付いた段階で、心の奥にあるスキーマの修正に挑戦します。

頑なな信念(スキーマ)が変わると、出来事の解釈が根本から変わり、生きることがずっと楽になります。

心の奥にあるスキーマに反論を挑み、それを柔軟で合理的なものへと変えていくことが、心の健康を取り戻す鍵となるのです。


まとめ

認知行動療法は、創始者たちの知恵が詰まった、自動思考スキーマという心の習慣を変える効果的なアプローチです。

「思い込み」を単なる感情として片付けず、「不合理な信念」として捉え、論理的に反論していくことで、私たちは心の奥底にある頑ななスキーマを修正し、より楽な生き方を手に入れることができます。

心の習慣を変えて、生きづらさを解消したい方は、ぜひこのCBTの考え方を日常生活に取り入れてみてください。